日本酒ができるまで — 精米から搾り・火入れまでの全工程
酔談部 編集部

米が日本酒になるまでには、精米から瓶詰めまで十を超える工程があります。麹と酵母が同じタンクで働く「並行複発酵」の仕組みとあわせて、酒造りの流れを順番に追っていきます。
米を「糖にしながら、同時にお酒にする」
日本酒の原料は、米・米麹・水が基本です。ブドウのように最初から糖を含む果実と違い、米の主成分はでんぷんなので、そのままでは酵母がアルコールに変えることができません。そこで麹の力を借りてでんぷんを糖に分解し、その糖を酵母がアルコールに変えていきます。
この「糖化」と「発酵」が、ひとつのタンクの中で同時に進むのが日本酒の大きな特徴で、並行複発酵と呼ばれます。ビールも麦のでんぷんを糖にしてから発酵させますが、こちらは糖化を済ませてから発酵に移ります。日本酒は両方を並べて進めるため、糖が少しずつ供給され、酵母が長く働き続けられます。その結果、もろみの段階でアルコール度数が20度前後に達することもあります。
全体の流れは、おおよそ次のとおりです。蔵や酒のタイプによって、省かれる工程や順番が入れ替わるものもあります。
1. 精米 — 米の外側を削る
玄米の外側には、たんぱく質や脂質が多く含まれています。これらは味に厚みを与える一方、多すぎると雑味のもとにもなるため、精米機で外側を削り取ります。どれだけ残したかを示すのが精米歩合で、60%なら外側の40%を削ったという意味です。ふだん食べる白米が90%前後なので、酒造りでは米をかなり小さくしていることが分かります。
削るときは、米が熱を持ったり割れたりしないよう、時間をかけて少しずつ進めます。削った直後の米は乾いて熱を帯びているため、しばらく置いて水分を落ち着かせる「枯らし」の期間を設けるのが一般的です。
2. 洗米・浸漬 — 吸わせる水の量を決める
精米した米に残ったぬかを洗い落とし、水に浸けて吸水させます。吸水の量は蒸し上がりの状態を左右するため、よく磨いた米ほど慎重に扱います。吟醸酒などでは、ストップウォッチで時間を計り、狙った吸水量になった時点で引き上げる「限定吸水」が行われることもあります。
3. 蒸し — 外は硬く、中はやわらかく
酒造りの米は炊くのではなく、甑(こしき)と呼ばれる大きな蒸し器で蒸します。蒸気で加熱すると、粒の表面はさらりとしたまま中まで火が通り、麹菌が根を伸ばしやすく、もろみの中でもほどよく溶ける米になります。この理想の状態は「外硬内軟(がいこうないなん)」と表現されます。
蒸し上がった米は、行き先に合わせた温度まで冷まします。麹用、酒母用、仕込み用と、使い道によって求められる温度が違います。

4. 製麹 — 麹室で麹を育てる
蒸米の一部に麹菌の胞子をふりかけ、温度と湿度を保った麹室で育てたものが米麹です。麹菌は米の内側へ菌糸を伸ばし、でんぷんを糖に分解する酵素をつくります。この酵素が、のちにもろみの中で糖化を担います。
製麹にはおよそ2日かかり、その間、蔵人は米をほぐして熱や水分を逃がしたり、小分けにして温度をそろえたりと、夜を通して世話を続けます。「一麹、二酛、三造り」という言葉があるほど、麹の出来は酒の仕上がりを大きく左右すると考えられてきました。

5. 酒母 — 元気な酵母をたくさん用意する
次に、発酵の主役である酵母を増やします。小さなタンクに麹・蒸米・水と酵母を合わせ、健全な酵母だけが大量に育った状態をつくったものが酒母(酛)です。雑菌を抑えるには酸性の環境が必要で、その酸をどう用意するかで造り方が分かれます。
生酛系は手間も時間もかかりますが、酸や旨味に独特の厚みが出やすいとされます。
6. 三段仕込みともろみ — 3回に分けて量を増やす
酒母ができたら、いよいよ本番の仕込みです。大きなタンクに酒母を移し、麹・蒸米・水を加えていきますが、一度に全量は入れません。4日をかけ、3回に分けて量を増やしていくのが一般的で、これを三段仕込みと呼びます。
- 1日目「初添(はつぞえ)」:酒母に最初の原料を加える
- 2日目「踊り」:仕込みを休み、酵母が増えるのを待つ
- 3日目「仲添(なかぞえ)」:2回目の原料を加える
- 4日目「留添(とめぞえ)」:最後の原料を加えて仕込みを終える
一気に大量の原料を入れると、酒母の酸や酵母が薄まり、雑菌に負けやすくなります。段階的に量を増やすことで、酵母の勢いを保ったまま大きなタンクいっぱいまで仕込めるわけです。
仕込みを終えたタンクの中身がもろみです。ここで並行複発酵が進み、表面には泡が立ち、香りが日ごとに変わっていきます。期間はおおむね3週間から1か月あまりで、吟醸酒のように低い温度でゆっくり発酵させるものほど長くなる傾向があります。杜氏はもろみの温度や成分を毎日確かめながら、搾るタイミングを見極めます。
7. 上槽 — 酒と酒粕に分ける
発酵を終えたもろみを搾り、液体の酒と固形の酒粕に分ける作業が上槽(じょうそう)です。方法はいくつかあります。
- 自動圧搾機:板状のろ布を並べた機械で、空気の力で圧をかけて搾る。現在の主流
- 槽(ふね)搾り:もろみを詰めた酒袋を槽の中に積み重ね、上から圧をかける
- 袋吊り:酒袋を吊るし、自然にしたたる雫だけを集める。手間がかかり、量は少ない
搾り始めの濁りを含んだ部分は「あらばしり」、中ほどの落ち着いた部分は「中取り」、最後に圧を強めて搾った部分は「責め」と呼ばれ、それぞれ味わいが異なります。

8. 滓引き・濾過 — 澄ませて整える
搾ったばかりの酒には、細かなおりが残っています。タンクで静かに置いておりを沈め、上澄みを移す作業が滓引きです。さらに、濾過で色や香味を整える場合もあります。活性炭を使うと色や雑味を取り除けますが、個性まで削りすぎないよう加減が求められます。濾過をしないで出荷するものは「無濾過」と表示されることがあります。
9. 火入れ — 加熱して品質を落ち着かせる
火入れは、酒を60℃台に加熱する工程です。酵母や残った酵素のはたらきを止め、酒を傷める菌を抑えて、品質を安定させる目的があります。一般的には、貯蔵の前と瓶詰めの前の2回行います。火入れの有無やタイミングによって、呼び名が変わります。
- 生酒:一度も火入れをしない
- 生貯蔵酒:貯蔵前は行わず、瓶詰め前に1回だけ行う
- 生詰め酒:貯蔵前に1回だけ行い、瓶詰め前は行わない(秋の「ひやおろし」に多い)
10. 貯蔵 — 夏を越して味をまとめる
火入れした酒はタンクで貯蔵され、時間をかけて味わいがなじんでいきます。搾りたての荒々しさが落ち着き、丸みが出てくるのがこの期間です。冬から春に搾った酒が夏を越し、秋に飲みごろを迎えるという流れは、季節の楽しみにもなっています。数か月で出荷するものから、何年も寝かせる熟成酒まで、期間には幅があります。
11. 割水・瓶詰め — 出荷の準備
出荷の前には、多くの場合、水を加えてアルコール度数を整えます(割水)。搾ったままの度数は高めなので、15度前後に調整されることが多く、割水をしないものは「原酒」と呼ばれます。味と度数を確かめたら瓶に詰め、必要に応じて2回目の火入れを行い、ラベルを貼って出荷されます。
冬に造られてきた理由
酒造りは伝統的に、秋の収穫を終えた冬に行われてきました。「寒造り」と呼ばれ、気温の低い時期は雑菌が増えにくく、発酵の温度も管理しやすいためです。今は設備を整えて一年を通して仕込む蔵もありますが、冬に新酒が搾られ、夏を越して熟成するという季節のリズムは、多くの蔵で受け継がれています。
工程を知ると、ラベルが読みやすくなる
ラベルにある「精米歩合」「生酛」「無濾過」「生酒」「原酒」といった言葉は、ほとんどがこの工程のどこかに対応しています。どの工程で何をした(あるいは、しなかった)酒なのかを思い浮かべながら飲むと、味の違いの理由も少しずつ見えてきます。