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日本酒文化

日本酒と季節の行事 — 屠蘇・鏡開き・花見酒・月見酒

酔談部 編集部

日本酒と季節の行事 — 屠蘇・鏡開き・花見酒・月見酒
写真: 歌川広重 / Public domain / Wikimedia Commons

正月の屠蘇や鏡開き、ひな祭りの白酒、花見・月見・雪見の酒、秋のひやおろし、新酒を知らせる杉玉、10月1日の日本酒の日まで。一年の行事と日本酒の関わりを季節の順にたどります。

行事の酒は「分かち合う」酒

日本では古くから、神に供えた酒を下げて、集まった人たちでいただく習わしがあります。祭りのあとの「直会(なおらい)」がその代表です。季節の行事に日本酒がよく登場するのも、こうした「供えて、分かち合う」考え方とつながっています。結婚式の三三九度や、家を建てる前の地鎮祭で供えるお神酒のように、人生の節目の儀礼にも日本酒は欠かせないものでした。

ここでは一年の流れに沿って、日本酒と関わりの深い行事を紹介します。なお、行事の酒であっても、20歳未満の方や車を運転する方は飲まないでください。

正月:屠蘇(とそ)

正月に一年の無事を願って飲む「お屠蘇」は、山椒や桔梗、肉桂などの生薬を合わせた「屠蘇散」を、日本酒やみりんに浸して作ります。中国から伝わり、平安時代には宮中の正月行事に取り入れられていたとされています。「屠蘇」という名前は「邪気を屠(ほふ)り、魂を蘇らせる」という意味だと説明されることが多いものの、由来には諸説あります。

屠蘇は、銚子と重ねた盃、盃台をそろえた「屠蘇器」でいただくのが正式とされます。年少の人から順に年長者へと盃を回す作法が伝わっていますが、実際の飲み方は家庭や地域によってさまざまです。20歳未満の人は口をつけるまねだけにするか、アルコールを含まないもので代えるとよいでしょう。

屠蘇散は、年末になると薬局や正月用品の売り場などで見かけます。数時間からひと晩ほど酒やみりんに浸しておけば用意できます。

朱塗りの銚子と重ねた盃、盃台を盆にのせた屠蘇器
屠蘇器の一例。銚子と重ねた盃、盃台を盆にのせてそろえる 写真: Hyougushi / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons

1月:鏡開き

「鏡開き」には二つの意味があります。ひとつは、正月に供えた鏡餅を下ろし、刃物を使わずに割って食べる行事です。1月11日に行うところが多いものの、日付は地域によって異なります。

もうひとつは、祝いの席で酒樽のふたを木槌で割って開ける儀式です。酒樽の丸いふたを「鏡」と呼ぶことからこの名があり、「割る」という言葉を避けて「開く」と言い表します。新年会や開店祝い、結婚式などで見られ、開けた樽の酒をその場の全員で酌み交わします。

祝いの樽には、木の樽で貯蔵して木の香りを移した「樽酒」が使われることもあります。ふたを開けた瞬間に立ちのぼる木の香りも、この儀式の楽しみのひとつです。

正月飾りを添えて積み上げた酒樽と火鉢を描いた摺物
正月飾りを添えて積み上げた酒樽を描いた摺物(魚屋北渓、1832年) 写真: 魚屋北渓 / CC0 / Wikimedia Commons

3月:ひな祭りの白酒

ひな祭りに飾られる「白酒(しろざけ)」は、蒸したもち米と米麹に、みりんや焼酎を加えて熟成させ、すりつぶして造る甘いお酒です。酒税法ではリキュール類に分類され、アルコールをしっかり含んでいます。米麹から造るノンアルコールの甘酒とは別のものなので、子どもには甘酒を用意しましょう。なお、酒粕から作る甘酒は、アルコールをわずかに含むことがあります。

江戸では、神田の酒屋「豊島屋」が売り出した白酒が評判を呼び、ひな祭りに白酒を飲む習わしが広まったと伝えられています。さらにさかのぼると、桃の花を酒に浸した「桃花酒」を飲む風習もあったとされます。

春:花見酒

桜の下で酒を酌み交わす花見は、江戸時代に町の人びとの楽しみとして広がりました。江戸では隅田川の堤や飛鳥山、上野などが花見の名所となり、八代将軍・徳川吉宗が飛鳥山などに桜を植えさせたという話も伝わっています。歌川広重をはじめ、多くの浮世絵師が花見のにぎわいを描きました。

屋外で飲むときは、和らぎ水を用意し、場所ごとのルールやごみの持ち帰りも守って楽しみましょう。

秋:月見酒と重陽の菊酒

秋の月見は、旧暦8月15日の「十五夜」と、旧暦9月13日の「十三夜」が知られています。月を眺めながら酒を楽しむ「月見酒」では、盃の酒に月を映して味わうという風流な楽しみ方も語られてきました。

旧暦9月9日の重陽の節句には、菊の花びらを浮かべた「菊酒」を飲む風習があります。これも中国から伝わった習わしです。

秋:ひやおろしと秋あがり

一般的な日本酒は、貯蔵する前と出荷する前の2回、加熱処理(火入れ)をしてから出荷されます。秋になると酒販店に並ぶ「ひやおろし」は、この2回目を省いた酒です。冬から春にかけて搾った酒を、一度だけ火入れしてタンクで貯蔵し、夏を越したあと、出荷前の二度目の火入れをせずに瓶に詰めたものを指します。「冷や(加熱しない状態)のまま卸す」ことから、この名があります。

夏のあいだに味がなじみ、角が取れてまろやかになった状態は「秋あがり」と呼ばれます。どちらも国の表示基準で定義された言葉ではないため、出荷の時期や造り方は蔵によって違います。ラベルの説明を読んで、その蔵なりのひやおろしを味わってみてください。

冬:雪見酒、新酒と杉玉

雪景色を眺めながら酒を楽しむのが「雪見酒」です。「雪月花」という言葉があるように、雪・月・花はいずれも、酒とともに愛でられてきた題材です。

冬は新酒の季節でもあります。日本酒の業界では、7月から翌年6月までを「酒造年度」として区切り、その年度に造られた酒を新酒と呼びます。早い蔵では秋の終わりごろから、搾ったばかりの「しぼりたて」が出回り始めます。

新酒ができたことを知らせる目印が、酒蔵の軒先につるされる杉玉(酒林)です。つるしたばかりの杉玉は青々とした緑色で、時間とともに茶色へと変わっていくため、酒の熟し具合の目安としても語られます。奈良県桜井市の大神神社(おおみわじんじゃ)は酒造りの神をまつる神社として知られ、毎年11月14日に醸造安全祈願祭(酒まつり)が行われます。その前日には、拝殿につるされた大きな杉玉が新しいものにかけ替えられます。

10月1日は「日本酒の日」

10月1日は、日本酒造組合中央会が1978年(昭和53年)に定めた「日本酒の日」です。この日が選ばれた理由として、次の二つがよく挙げられます。

  • かつての酒造年度は10月1日に始まっていて、酒造りの新しい一年の始まりにあたっていた
  • 十二支で10月にあたる「酉(とり)」の字が、もともと酒を入れる壺の形を表しているとされる

この日の前後には、各地で日本酒のイベントや乾杯の催しが開かれます。ひやおろしが出回る時期とも重なるので、秋の酒を味わうきっかけにもなります。

店頭で見かける季節の酒

行事とは別に、酒販店の棚にも季節の移り変わりが表れます。蔵や地域によって時期は前後しますが、おおよその目安は次のとおりです。

  • 冬:搾ったばかりの「しぼりたて」や新酒。燗酒がおいしく感じられる季節でもある
  • 春:新酒が落ち着き始め、生酒や、軽くにごりを残した酒などが並ぶ
  • 夏:冷やして飲むことを想定し、軽やかに仕立てた酒を「夏酒」として出す蔵もある
  • 秋:ひやおろしや、夏を越して味がなじんだ酒

同じ銘柄でも、季節ごとの限定品で味わいが変わることがあります。行事と合わせて選んでみると、一年を通して日本酒を楽しむ手がかりになります。

季節の酒を楽しむために

行事の酒は、たくさん飲むことよりも、その場の人と季節を分かち合うことに意味があります。ひと口ずつでも季節の酒を味わい、和らぎ水を添えて、無理のない範囲で楽しんでください。

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