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酔談部コラム

酒蔵を訪ねるとき、何を見ているか — 蔵見学の見どころとマナー

酔談部 編集部

酒蔵を訪ねるとき、何を見ているか — 蔵見学の見どころとマナー
写真: ハポニアラ / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons

酒蔵見学は、酒造りの流れを建物や設備で確かめられる機会です。蔵の外から中へ、どこに目を向けるとよいか、訪ねる前に知っておきたいマナー、蔵の人に聞いてみたいことを整理しました。

蔵見学は、工程を立体で見る機会

本やラベルで知った言葉——精米歩合、麹、もろみ、搾り——が、実際の建物や道具と結びつくのが酒蔵見学のおもしろさです。見学コースを常設している大きな蔵もあれば、少人数で案内してくれる小さな蔵もあります。いずれにしても、ただ歩いて回るより、見るポイントをいくつか持っておくほうが、帰ってから飲む一杯の印象が変わります。

このコラムでは、蔵を訪ねるときに目を向けたいところを、外から中へ順に整理しました。公開している場所や時期は蔵によって違うので、「こういうところに注目すると面白い」という目安として読んでください。

外から見る — 蔵の構えと杉玉

建物の造り

敷地に入る前に、まず建物全体を眺めてみます。白壁の土蔵や板張りの外壁、瓦屋根、背の高い煙突など、酒蔵には独特の構えがあります。煙突は、米を蒸すための釜やボイラーを焚いていた名残であることが多く、使われなくなった今も蔵の目印として残されている場合があります。

建物の並びにも意味があります。原料を運び込む場所、米を蒸す場所、仕込みを行う蔵、貯蔵する蔵が、作業の流れに沿って配置されていることが少なくありません。案内図があれば、どの建物で何をしているのかを最初に確かめておくと、あとの説明が頭に入りやすくなります。

軒先の杉玉

入り口の軒先に吊るされた杉玉も見どころのひとつです。新酒を搾るころに青々とした新しい杉玉に掛け替え、時間とともに茶色へと変わっていくのが一般的です。色を見れば、その年の造りがどのあたりまで進んでいるのかを想像できます。

水 — 酒の大部分をつくるもの

日本酒の成分の大半は水です。仕込みに使う水だけでなく、米を洗う、浸す、道具を洗うといった場面でも大量の水を使うため、酒蔵は良い水が得られる場所に建てられてきました。敷地内に井戸を持つ蔵も多く、見学者が仕込み水を味見できるようにしているところもあります。

水に含まれるミネラルの量は、発酵の進み方に影響します。ミネラルの多い水では発酵が進みやすく、しっかりした辛口に、少ない水では発酵が穏やかになり、やわらかな酒質になりやすいと言われます。兵庫・灘の「男酒」と京都・伏見の「女酒」という対比は、こうした違いを表す言葉としてよく知られています。仕込み水を飲ませてもらえたら、その蔵の酒と飲み比べてみてください。

石組みの井戸から木の桶へ水が注ぐ様子
酒蔵の敷地内に湧く井戸水(京都市伏見区・月桂冠大倉記念館) 写真: ばばさま / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

中を見る — 工程ごとの設備

精米と米の扱い

自社で精米している蔵では、精米機を見られることがあります。精米を外部に任せている蔵も少なくないので、「どこで磨いているのか」を聞いてみるのもひとつです。洗米や浸漬の場所では、米を扱う手順の細かさに驚かされるかもしれません。

麹室

麹を育てる麹室は、蔵の中でも特に温度と湿度を高く保つ部屋です。保温のために壁や天井を杉板で張った造りが多く、扉も厚くできています。雑菌を持ち込まないよう、見学者は中に入れないのがふつうで、窓越しに見るか、説明を聞くだけになることがほとんどです。それでも扉の前に立つと、麹の甘く香ばしい香りが感じられることがあります。

板張りの部屋に麹づくりの台と道具が並ぶ展示
資料館で再現された昔の麹室。板張りの部屋に、麹を広げる台や麹を入れる木箱が並ぶ(神戸市・沢の鶴資料館) 写真: Masahiko OHKUBO / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

仕込み蔵

酒母やもろみのタンクが並ぶ仕込み蔵は、見学のハイライトになりやすい場所です。タンクには番号や容量が書かれていて、どのタンクに何を仕込んだかを管理しています。造りの時期に訪ねると、発酵中のもろみをのぞかせてもらえることもあります。表面の泡の様子や立ちのぼる香りは、写真や文章ではなかなか伝わらないものです。ただし、発酵中のタンクからは炭酸ガスが出ているので、のぞき込むときは案内に従い、身を乗り出さないようにしましょう。

仕込み蔵に並ぶ大きなタンク
仕込み蔵に並ぶタンク。タンクの上部に作業用の足場が渡されている(岐阜県・奥飛騨酒造) 写真: 杉山宣嗣 / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

搾りの設備

もろみを酒と酒粕に分ける上槽の設備も、蔵ごとの個性が出るところです。板状の布を何枚も並べた自動圧搾機を使う蔵が多い一方、木製の槽(ふね)で時間をかけて搾る蔵や、袋に詰めたもろみを吊るして雫を集める方法を一部の酒に使う蔵もあります。どの方法で搾っているかは味わいにも関わるので、確かめておきたいポイントです。

季節によって見えるものが違う

酒蔵の一年は、大きく「造りの季節」と「それ以外」に分かれます。多くの蔵では秋の終わりから春先にかけて仕込みを行い、この時期に訪ねると、蒸気や発酵の香り、蔵人の動きなど、活気のある様子に触れられます。ただし、忙しい時期のため見学を受け付けない蔵も少なくありません。

夏から秋にかけては仕込みが落ち着き、貯蔵や瓶詰めが中心になります。設備をゆっくり見せてもらえたり、説明に時間を割いてもらえたりするのは、むしろこの時期かもしれません。春先には「蔵開き」として蔵を一般に開放するところもあり、見学の入り口として気軽に参加できます。

訪ねる前に知っておきたいマナー

予約と時間

見学は予約制の蔵が多く、小さな蔵では案内する人に作業の手を止めてもらうことになります。公式サイトなどで見学の可否や受付方法を確認し、予約した時間を守りましょう。遅れそうなときは早めに連絡を入れます。

衛生面への配慮

酒造りは微生物を扱う仕事なので、外から菌を持ち込まない配慮が求められます。よく知られているのが、見学の当日(蔵によっては前日から)は納豆を食べないでほしいというお願いです。納豆菌は繁殖力が強く、麹づくりに影響するおそれがあるとされるためです。そのほか、次のような点にも気をつけます。

  • 香水や香りの強い整髪料は控える
  • 床が濡れていることが多いので、滑りにくく歩きやすい靴で行く
  • タンクや道具には手を触れない
  • 白衣や帽子などの着用を求められたら従う
  • 写真は、撮ってよい場所かどうかを先に確認する

試飲と運転

見学のあとに試飲ができる蔵も多いですが、車を運転する人は一滴も飲まないのが大前提です。運転する人のために仕込み水やノンアルコールの飲み物を用意している蔵もあります。飲むつもりなら、最初から公共交通機関で向かう計画を立てておきましょう。20歳未満の方は試飲できません。

売店での楽しみ

見学の締めくくりに立ち寄ることが多いのが、蔵の売店です。蔵元でしか扱っていない酒や、季節限定の酒が並んでいることもあります。買うときは、持ち帰りの手段や、生酒なら冷蔵が必要かどうかも確認しておくと安心です。

蔵の人に聞いてみたいこと

案内の最後に質問の時間があれば、次のようなことを聞いてみると、その蔵らしさが見えてきます。

  • 仕込み水はどこから引いていますか
  • 使っているお米と、その産地はどこですか
  • 搾りはどの方法で行っていますか
  • 火入れはいつ、何回行っていますか
  • どんな温度や料理と合わせて飲んでほしいですか
  • この季節ならではのお酒はありますか

答えは蔵によってさまざまで、どれが正解ということはありません。「なぜそうしているのか」まで聞くと、蔵の考え方が伝わってきます。忙しい時期には長く引き留めないよう、質問は要点を絞りましょう。帰ってからその蔵の酒を飲むと、見てきた景色と味がつながるはずです。