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日本酒文化

杉玉(酒林)とは — 酒蔵の軒先に吊るされる緑の玉の意味

酔談部 編集部

杉玉(酒林)とは — 酒蔵の軒先に吊るされる緑の玉の意味
写真: Spiegel / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

酒蔵や酒販店の軒先に吊るされた、杉の葉の丸い玉。「杉玉」「酒林」と呼ばれるこの目印について、由来として語られる説、緑から茶色への色の変化が伝えること、作り方の概略を紹介します。

杉の葉を丸く束ねた、酒屋の目印

酒蔵の入り口や酒販店の軒下に、緑色や茶色の大きな玉が吊るされているのを見たことがあるでしょうか。これは杉玉(すぎだま)と呼ばれるもので、杉の葉を球の形に束ねて作られています。酒林(さかばやし)という呼び名もあり、昔から「ここは酒を造っている、売っている家です」と知らせる看板の役割を担ってきました。

大きさは、両手でかかえられる程度のものから、直径が1メートルを超えるものまでさまざまです。文字も絵もないのに、見ればすぐに酒屋だと分かる。日本酒が暮らしの中に根づいてきたことを感じさせる目印です。

吊るし方にも蔵ごとの違いがあります。軒の梁から太い縄で下げるもの、小さな屋根をかけた台の下に吊るすもの、しめ縄や紙垂(しで)を添えて神聖な雰囲気をまとわせたものなど、見比べてみると意外に表情が豊かです。酒蔵の多い町では、通りのあちこちに杉玉が下がり、それ自体が町並みの一部になっています。

古い町並みの軒先に並んで吊るされた茶色の杉玉
古い町並みに残る酒蔵の軒先に、いくつも吊るされた杉玉(奈良県宇陀市松山) 写真: 663highland / CC BY 2.5 / Wikimedia Commons

由来として語られる説

三輪山と大神神社

杉玉の由来として広く知られているのが、奈良県桜井市の大神神社(おおみわじんじゃ)との関係です。大神神社は三輪山そのものをご神体とする古い神社で、祀られている神は酒造りの神としても信仰されてきました。万葉集などで「味酒(うまさけ)」が「三輪」にかかる枕詞として使われていることも、三輪と酒の結びつきの古さを示す例としてよく紹介されます。

三輪山の杉は神聖な木とされ、その杉の葉で作った玉を酒屋が軒先に掲げるようになった、というのが一般に語られている説です。大神神社では毎年11月に醸造の安全を祈るお祭りが行われ、拝殿には青々とした杉で新しく作り替えられた大きな杉玉が掲げられます。祭典のあとには、全国の酒造関係者に杉玉が授与されています。

はっきりしないことも多い

一方で、杉玉がいつ、どこで始まったのかを確かに示す記録は多くありません。古くは杉の葉を束ねたほうきのような形で吊るされていたとされ、今のような球形が広まったのは江戸時代の後半ごろと言われています。杉は樽や桶、麹を入れる箱などの材料にもなる、酒造りに身近な木でした。そうした結びつきもあって杉の葉が選ばれたのではないか、と考える人もいます。

いずれも伝承や後の時代の説明によるところが大きく、ひとつの説だけが正しいと決めることはできません。由来は「そう語られてきた」という形で受け止め、杉玉が長く酒屋の目印であり続けてきたこと自体を味わうのがよさそうです。

緑から茶色へ — 色が伝える酒の季節

新酒ができた知らせ

現在の杉玉には、もうひとつ大切な役目があります。それが「新酒ができました」という知らせです。時期は蔵によって異なりますが、その年の酒を搾りはじめるころに、青々とした新しい杉玉へ掛け替える蔵が多くあります。軒先の杉玉が鮮やかな緑色になっていたら、今年の造りが進み、搾りたての酒が出はじめた合図と受け取ることができます。

掛け替えはおおむね年に一度で、秋の終わりから冬にかけて行うところが目立ちます。一方、店先の飾りとして一年中同じ杉玉を下げている店や、傷みに応じて不定期に替えるところもあるので、色だけで新酒の有無を決めつけないほうがよいでしょう。

色の変化は熟成の目安

吊るされた杉の葉は、時間とともに水分が抜けて色が変わっていきます。この変化が、蔵の中で酒がゆっくり落ち着いていく時間と重なることから、杉玉の色は酒の熟成具合を知る目安とも言われます。季節ごとのおおまかな対応は、次のとおりです。

  • 緑色:冬から春。搾りたての新酒や生酒が出回るころ
  • 黄緑から薄い茶色:春から夏。落ち着きはじめた酒を楽しめるころ
  • 茶色:秋。夏を越した「ひやおろし」などが出回るころ
緑と茶色がまだらに混じった杉玉
緑から茶色へと色が移りつつある杉玉(兵庫県姫路市の酒店) 写真: Jnn / CC BY 2.1 JP / Wikimedia Commons

もちろん、色の移り方は天候や吊るす場所によって変わります。厳密な指標ではなく、季節を感じる手がかりとして眺めるのがちょうどよい距離感です。茶色くなった杉玉は古びて見えるかもしれませんが、酒が熟していく時間を映したものだと思うと、見え方が変わってきます。

しめ縄と紙垂が添えられた茶色の杉玉
すっかり茶色になった杉玉。しめ縄と紙垂が添えられている(岐阜県高山市、5月) 写真: Celuici / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

杉玉の作り方(概略)

杉玉は、蔵人が自分たちで作ることもあれば、専門の職人から取り寄せることもあります。作り方の流れは、おおむね次のとおりです。

  1. 芯を用意する:針金や竹などで、球形の骨組みを作る
  2. 杉の葉を集める:葉のついた杉の小枝を、たくさん切りそろえる
  3. 差し込む:小枝を芯に向かって隙間なく差し込み、全体をぎっしり埋めていく
  4. 刈り込む:刈り込みばさみで表面を整え、きれいな球形に仕上げる

数十センチほどの杉玉でも、使う杉の葉はかなりの量になります。差し込みが終わった段階ではまだぼさぼさの塊ですが、刈り込むにつれて丸い形が現れてきます。

できあがったばかりの杉玉は、水分を含んだ葉がぎっしり詰まっているため、見た目以上に重くなります。大きなものほど、丈夫な梁や金具を選んで吊るす必要があります。吊るしたあとは葉が少しずつ乾いて軽くなり、それにつれて色も変わっていきます。地域の催しや酒蔵のイベントとして、杉玉づくりの体験会が開かれることもあるので、機会があれば参加してみるのもよいでしょう。

杉玉を手がかりに酒を選ぶ

杉玉の色は、お酒選びのきっかけにもなります。たとえば、緑の杉玉を見かけた蔵や店では、その年の新酒やしぼりたての生酒が並んでいるかもしれません。フレッシュで勢いのある味わいを楽しむなら、この時期がねらい目です。

反対に、杉玉がすっかり茶色くなった秋口には、夏を越して味がまとまった酒が出回ります。同じ蔵の酒でも、春に飲んだときと秋に飲んだときでは印象が違うことがあります。杉玉の色の移り変わりとあわせて、季節ごとの味の違いを飲み比べてみるのも楽しみ方のひとつです。

最近は、小さな杉玉が酒蔵の売店や土産物店で売られていることもあります。家に飾れば、緑から茶色へ変わっていく様子を身近で眺められます。

見かけたら、少し足を止めてみる

杉玉は酒蔵だけでなく、酒販店や飲食店の軒先に吊るされていることもあります。緑色なら新酒の季節、茶色くなっていたら熟成が進んだ季節。蔵を訪ねたときや旅先の町を歩いているときに杉玉の色を気にしてみると、日本酒の一年の流れが少し身近に感じられるはずです。

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